年金

企業型確定拠出年金はひどい制度なの?知っておくべきポイント

6人に1人が加入している企業型DC

ネット上で企業型確定拠出年金を検索すると、「デメリットしかない」とか「ひどい」「だまされるな」と言ったネガティブな情報が出てきますが、本当にそうなのでしょうなのか?
確かにデメリットして①60歳まで引き出しができない②運用次第では元本割れになる③継続教育などの手間と費用がかかると言った点はありますが、実際は、企業型確定拠出年金(企業型DC)を導入している事業所は、制度が発足した2001年より毎年増加しています。

 

 

 

 

 

 

 

また、加入者も2022年3月末で782万人になっています。企業型DCの加入資格は、厚生年金の被保険者となりますが、その数は2021年度末で4,535万人となっていますので、6人中1人が企業型DCに加入していることになります。本当にひどい制度であればこのように増加することはありません。

従業員数が多い企業に普及している

当初の確定拠出年金の導入目的は、厚生年金基金や確定給付企業年金(DB)の積立不足を回避するためでした。確定拠出年金制度ができるまでの退職金・年金の準備方法は、企業が掛金を負担し、受取時の退職金・年金額を保証する確定給付型でしたが、バブル崩壊の影響で運用利回りが予定利率を下回り、企業は積立不足額(退職給付債務)を補填しなければならなくなりました。2000年当時、積立不足は1.3兆円、従業員1人当たり237万円にも及びました。この積立不足を解消するために、掛金の拠出は保証するが、出口の受取額は個々人の運用次第という確定拠出年金が普及していきました。企業にとっては、積立不足が生じないというのが最大のメリットです。従業員にとっては、想定利回りより高い運用成果になれば受取額が増えますが、逆に下回ると確定給付の企業年金が良かったということになります。企業型DCの従業員数別の加入状況は、従業員数が多い企業の割合が高くなっています。理由として、退職給付会計を中小企業で導入しているケースは少なく、そのため確定拠出年金の導入企業は、退職給付会計のある従業員が多い企業になっています。
2021年の企業年金連合会の確定拠出年金の実態調査では、導入企業の従業員数の割合は次の通りです。


100人以上の従業員数の企業が85%にもなります。

中小企業にとって企業型確定拠出年金の導入メリットはないのか?

「退職金制度はないし、あったとしても退職給付会計は導入していない」という中小企業にとって、企業型DCを導入するメリットはないのでしょうか?

新卒入社3年以内の離職率

2021年10月の厚生労働省の発表によると、新卒者の就職後3年以内の離職率は3割以上にもなります。規模別では、従業員数1,000人以上の会社の離職率は高校卒が25.6%、大学卒が24.7%となっています。99人以下の中小企業では約40%まで離職率が高まります。

転職組の受け皿

「企業型DCがあるから転職先に選んだ」というほどのインパクトはありませんが、私たちが従業員説明会で確定拠出年金の話をすると、「以前の会社で加入していた」という従業員がいます。どこの会社ですか?と聞くと、ほとんどの方が大企業からの転職だということがわかります。転職先に企業型確定拠出年金がなかったのでiDeCo(個人型DC)に移換した、何も手続きをしていないという方にとっては、転職先に確定拠出年金があれば移し替えることができるので助かります。iDeCoのままだと、手数料を毎月個人で負担しなければいけないし、手続きをしていないと国民年金連合会に自動移換され運用されず手数料だけ引かれることになりますので、その従業員にとっては助かる制度になります。自動移換とは?
実際、導入された会社の転職組の従業員さんが「この年金制度があって良かった」とコメントされていました。従業員のコメント

企業年金ありと表示できる

求人の募集時に「企業年金あり」と表示することができます。退職金制度がある会社であれば、退職金+企業年金という好印象を持ってもらうことができます。退職金制度のない会社には(中小企業では2割の企業が退職金制度がない)企業年金の導入はプラス効果になります。

既存の従業員の老後支援になる

中小企業の退職金の水準は、500~600万円程度と言われています。数年前に老後2000万円問題が注目されましたが、退職金だけでは全然足りない状況です。そこで、会社として従業員の老後を支援する制度として、企業型確定拠出年金のニーズが高まっています。

中小企業の企業型確定拠出年金の導入数は増加している!

SBIホールディングス傘下のSBIベネフィットシステムズは、中小企業に特化した企業型確定拠出年金を扱っています。2020年から2023年の加入事業所数は、5,155件から10,167件と倍増しています。SBIベネフィットシステムズは、SBI証券を窓口として「SBIダイレクトプラン」を展開しています。1人から加入できるということで、中小企業が加入しやすい内容になっています。

 

 

 

 

 

 

中小企業で企業型DCが増加している理由

退職給付会計とは関係ない中小企業がなぜ導入するのかというと、従業員の福利厚生目的のためです。企業型確定拠出年金は、企業が従業員の退職金準備として掛金を負担する全員加入型と、従業員が任意で加入する選択制確定拠出年金の2種類があります。大企業が導入している制度は、前者の退職金準備のための制度ですが、中小企業が近年導入している制度は、後者の「選択制確定拠出年金」になります。大きな違いは、「掛金を誰が負担することになるのか」ということです。退職金準備のための制度であれば企業が掛金を負担することになりますが、「選択制」の場合は従業員が負担することになります。

選択制確定拠出年金のメリットは?

①従業員の加入は強制ではなく任意

全員加入でないと制度導入できないということであればハードルが高くなり導入を見送る企業が増えますが、加入する・しないは従業員の判断で自由にできる、しかも掛金も自由に決めることができるというのが選択制DCのメリットです。役員だけ、管理職だけといった加入でもOKです。

②掛金が社会保険料・税金の対象外となる

従業員が自分の給料の中から年金の掛金を天引きで払うと、その掛金は給料と見なされないので社会保険料・税金の対象外になります。

 

 

 

 

 

 

255,000円の給料の人が10,000円の掛金を支払う場合、通常の貯蓄と比べると社会保険料が3,000円、税金が扶養なしで計算すると700円ほど安くなるので、合計で3,700円も手取りが増えることになります。同じような制度としてiDeCo(個人型確定拠出年金)がありますが、iDeCoは税金の軽減だけなので、企業型DCの方に軍配が上がります。iDeCoより断然有利な企業型DC

③会社の保険料も安くなる

社会保険料は労使折半で支払っているため、企業側の社会保険料も自動的に3,000円安くなります。任意加入の制度となりますが、企業型DCの加入者が増えるほど会社の法定福利費の負担は軽減されます。10人が加入してくれれば毎月30,000円、年間だと360,000円もの効果になります。

④役員も加入できる

企業型DCは中小企業退職金共済(中退共)と違って、役員も加入することができます。また、小規模企業共済は役員報酬の中から支払いますが、企業型DCの掛金は会社負担となります。しかも全額損金計上できますので、掛金の上限額55,000円を支払うとその役員の退職金は、小規模企業共済の掛金70,000円と合わせると毎月125,000円も積立していることになります。

以上のように、従業員にも会社にも役員にもメリットがあるのが選択制企業型確定拠出年金です。「デメリットしかない、ひどい」と言われるような制度ではなく、反対に3者にメリットがあるので導入する企業が増えているのです。まだ導入されていない企業は、この年金制度を検討してみてください。ただし、注意点があります。この制度を導入するのに、どこに頼めばいいのかが重要になりす。導入を支援してくれる会社選びの参考にしてください。
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1級FP技能士 本川 吉弘

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