役員退職金の相場を業種別・規模別に解説!相場以上の額を受け取るための企業型確定拠出年金の活用方法も!

1.業種別・規模別の役員退職金の相場

役員退職金は損金を算入することで節税効果が見込めます。しかし、相場をきちんと把握した上で適正な金額を支給する必要があります。税務調査で「相場を超えた金額を支給している」と判断されてしまうと、税金の追加納付に加えて延滞税・加算税が課される可能性があるのです。

ここからは、役員退職金の相場や適正金額の計算方法に加えて、損金算入が否認されやすい例などを解説していきます。役員の退職準備を進めている経営者の方、人事担当者の方はぜひ参考にしてみてください。

役員退職金の相場

役員退職金についての相場は、800万円〜4,000万円と考えられます。役員退職金は多様な要因によって金額が変わるため、相場の幅も広くなっているのが特徴です。役員退職金の相場に影響する要素としては、以下のようなものが挙げられます。

・会社の規模、業種
・役員としての勤続年数
・役職・職位
・役員報酬金額
・会社への貢献度

役員退職金の金額を決める時は、同じ地域にある同業種・同規模の会社の役員退職金を参考にできればベストです。しかし、同じ地域に同業種・同規模の会社がない、あっても役員退職金の額がわからない、といったこともあるでしょう。そこで、以下に業種別・規模別の役員退職金の相場をご紹介します。以下の数値は、2014年に行われた日本実業出版社による調査がベースとなっています。

製造業

年商5~10億円未満の会社
社長:役員勤続年数26年、最終月額報酬120万円⇒役員退職金額 4,000万円
常務:役員勤続年数11年、最終月額報酬70万円⇒役員退職金額 2,232万円
取締役:役員勤続年数12年、最終月額報酬60万円⇒役員退職金額 1,500万円

年商5億円未満の会社
社長:役員勤続年数51年、最終月額報酬80万円⇒役員退職金額 4,000万円
常務:役員勤続年数7年、最終月額報酬70万円⇒役員退職金額 1,440万円

卸・小売業

年商5~10億円未満の会社
取締役:役員勤続年数9年、最終月額報酬60万円⇒役員退職金額 520万円

年商5億円未満の会社
専務:役員勤続年数25年、最終月額報酬20万円⇒役員退職金額 1,000万円

建設業

年商5~10億円未満の会社
専務:役員勤続年数45年、最終月額報酬25万円⇒役員退職金額 2,500万円

年商5億円未満の会社
取締役:役員勤続年数15年、最終月額報酬35万円⇒役員退職金額 450万円

サービス業

年商5~10億円未満の会社
専務:役員勤続年数29年、最終月額報酬80万円⇒役員退職金額 4,200万円

年商5億円未満の会社
社長:役員勤続年数16年、最終月額報酬52万円⇒役員退職金額 832万円

役員退職金の支給額は、「どの業者でどの規模ならいくら」というような一律の基準はありません。このため、国税庁の法令解釈に従って、適切に計算する必要があるのです。

医療法人の役員退職金の相場

医療法人は役員退職金規程を設けており、規程の範囲内の退職金を支払うことで法人の経費に算入することができます。個人事業の場合は事業主の退職金などはないので、ここは個人事業と医療法人で大きく異なる点だと言えるでしょう。

規程の範囲内であればいくらでも良いというわけではなく、同業種・同規模の法人で認められている範囲内が経費となります。これを超過した分は経費として認められません。功績倍率方式によって退職金規程を定めるのが一般的です。

医療法人の役員退職金の相場を考える時、功績倍率の上限は理事長だと3.0、理事だと2.0、監事だと1.0あたりが目安となります。退職金の他に弔意金(業務上の死亡の場合は36ヶ月分、業務外の死亡の場合は6ヶ月分)や功労金(退職金の3割相当額)があります。

2.役員退職金が相場から大きく外れているとトラブルも

現代、中小企業の多くで経営者の高齢化に伴う世代交代が進んでいます。役員退職金は支給された役員にとって税務上の優遇措置が多くある一方、支給することにより、会社の資産を減らして株価を下げることができるなど、事業承継の面から見たメリットもあります。

役員退職金は高額になりやすいため、課税庁から「不相当に高額」として否認されるケースは珍しくありません。否認されてしまうと損金に算入できず節税効果を得られないため、注意が必要です。追加納付を求められるだけでなく、延滞税や加算税が課せられる可能性もあります。

役員退職金の損金算入を否認されてしまう3つのパターン

最終月の役員報酬を引き上げている

「何か月前までであればいい」というような基準はありません。しかし、退職直前で役員報酬を引き上げると、役員退職金を押し上げる意図があったとみなされ、「不相当に高額」と判断される可能性が高まります。結果、最終月の役員報酬を引き上げている場合、役員退職金の損金算入は否認される可能性が高くなるのです。

功績倍率が不自然に高い

功績倍率が不自然に高く設定されている場合も、役員退職金の損金算入が認められない可能性が高まります。医療法人の役員退職金の相場とされる功績倍率の上限は、理事長で3.0、理事で2.0、監事で1.0です。この数値を超えてくると、不自然に高いと判断され、役員退職金の損金算入が否認されやすいと言えるでしょう。

功労加算金を追加支給する合理性がない

国税庁が示す功績倍率法の定義には、功労加算金についての言及はありません。功労加算金の追加支給に合理性がない場合、損金算入が否認される可能性が高いと言えます。特別な事例で税理士や会計士の後押しがない限り、功労加算金の支給は避けた方が良いでしょう。

3. 相場を踏まえた役員退職金の計算方法

役員退職金の計算方法は、「功績倍率法」と「1年あたり平均額法」の2通りがあります。どちらも税法に定義されているわけではありませんが、適正な役員退職金を計算するために広く用いられている方法です。

功績倍率法とは

多くの場合、役員退職金の算出には功績倍率法が用いられます。国税庁の法令通達解釈でも触れられている、とても一般的な計算方法です。功績倍率法は、同業種・同規模の法人の役員退職金データをもとにした数値とされています。

1年あたり平均額法とは

同業種・同規模法人の実績をもとに、1年あたりの役員退職金における平均値を算出し、役員勤続年数を掛けて役員退職金額を計算します。特別な事情等があり役員の最終月額報酬が低くなっている場合は、1年あたりの平均額法を採用します。

4.企業型確定拠出年金を併用し、相場を超えた額の資産形成が可能に

これまでは、役員退職金を準備するにあたり、生命保険を利用する役員の方が多かったと言えます。生命保険を併用するメリットは以下の通りでした。

1. 保険料の一部を損金に計上でき節税にもなる

令和元年7月までに契約した長期定期保険は、保険料の1/2を損金にできます。役員退職金に備える保険料の1/2を損金にできるため、役員退職金を準備する方法として多くの保険会社が勧めていました。

2. 70歳前後の役員退任時に返戻率がピーク

長期定期保険は保険期間が長いため、前払い保険料が解約返戻金として積み立てられます。支払保険料総額の9割近くが勇退する年齢である70歳前後でピークを迎えます。

これに対して、企業型確定拠出年金は、役員だけでも、1人だけでも加入できる制度であり、掛金は「福利厚生費」として税務上は全額損金として計上できます。自分で選んで運用できるため、資産を大きく増やすことも可能です。

例えば、役員退職金としては1億円が相場だと想定される場合に、企業型確定拠出年金で5,000万円の資産形成を併用活用することで、本来の役員退職金1億円に企業型確定拠出年金で資産形成した5,000万円を加えて、合わせて1億5,000万円を役員個人に渡すことができます。

企業型確定拠出年金を活用することで、これまでよりも効率的に、役員にも企業経営にもメリットのある退職金準備が可能です。この機会に、ぜひ企業型確定拠出年金の導入を検討してみてはいかがでしょうか?

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