役員退職金の損金算入限度額を超える額を受け取るには/企業型確定拠出年金の併用活用について

1. 役員退職金の損金算入要件について

役員退職金は会社にとって大きな支出になりやすい一方、効果的な節税方法については、あまり積極的に取り組めていない企業も多いところです。そこで、ここでは役員退職金を損金算入するための要件について解説していきます。

損金算入限度額について

役員退職金をいくらにするか、額自体に法的な縛りはありません。しかし、役員退職金は税務上、損金に算入できる額の上限が決まっています。法令上は、会社が役員退職金を支給するとき、「不相当に高額な部分の金額」は損金に算入できません。具体的な基準は以下の通りです。

・役員としての在任年数
・退職後、完全に引退するのか別の形で業務に関わるのかどうか
・同業種・同程度規模の会社で支払われている相場
・役員としての会社への貢献度

特に重要とされるのが、3つ目の「同業種・同程度規模の会社で支払われている相場」です。同じ地域にある、同じ業種・同程度規模の会社の役員退職金の額を参考にできればいいのですが、条件にある他社が近くにあるとは限りません。そこで使われるのが、「功績倍率法」です。

【 最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率=役員退職金 】

上記の式に当てはめることで、役員退職金を算出することができます。在任年数を計算に入れる理由は、会社を維持・発展させるために、その役員が一生懸命働いてきたことを示すためです。功績倍率は、役位に比例して高くなります。これは、役位が上がるほど、会社経営に対する責任も大きくなるためです。功績倍率の詳しい内訳は以下の通りです。

・社長 3.0
・専務 2.5
・常務 2.5
・取締役 2.0
・監査役 2.0

例えば、「代表取締役社長を30年勤め、最終報酬月額が100万円で功績倍率は3倍」というケースの役員退職金は、

100万円×30年×3倍=9000万円

となります。ただし、すべての役員退職金がこの式で計算されるわけではありません。この計算式を使うと退職金の額が極端に低くなってしまうケースもあるためです。例えば、最終報酬月額が、働き盛りの頃より低額に抑えてある場合が当てはまります。

こういった場合では、30%程度の「功労加算」を行い調整することができます。重要なのは、同じ地域にある同業種・同規模の会社と比べて高すぎないか、という点です。税務署はここを重視してチェックするため、「他と比べて高すぎないこと」が大切なのです。

功労加算とは

役員退職慰労金規程において、以下のような条項を設けていることがあります。

「特に功績顕著と認められる役員に対しては、功績倍率方式で計算した金額に、その〇%相当額を超えない功労加算をした金額をもって支給限度額とすることができる。」

この「〇%相当額」については、大体30%を上限として定められているケースが多いようです。しかし、その根拠ははっきりしていません。

例えば、役員退職金規程において、

1:役員退職金支給額=退職時の報酬月額×役員勤続年数×功績倍率2.0
2:功労加算金=1×30%

と規定している場合では、退職時の報酬月額100万円、役員勤続年数35年の場合の退職金支給(限度)額は

1:100万円×35年×2.0=7000万円
2:1×30%=2100万円
1+2=9100万円

となるのです。課税庁が税務上の「不相当に高額な金額」を功績倍率方式によって計算する際には、功労加算金という上乗せ部分は考慮しません。

手続きについて

役員退職金を損金に算入するためには、法的な手続に則って支給されていることが条件となります。会社法上、役員退職金の支払いには株主総会の決議が必要となります。例えば、オーナー企業で株主が1人という場合でも、形式上の株主総会を開き、決議内容を議事録として残しておかなくてはいけません。これを怠ると、会社法上では違法な支出ということになり、損金算入が認められないのです。

株主総会決議の際は、原則として、金額・計算方法について詳細に決めなくてはなりません。しかし、一部例外もあります。取締役会が設置されている会社では、株主総会決議で総額だけを決定し、誰にいくら支払うかの決定は取締役会の決議に任せることも可能です。

法人保険を原資として役員退職金を支給する形も

法人保険を使い、退職金に備えるという方法もあります。この場合、毎年損金算入しつつ、将来的に役員退職金を支給するための原資を作ることを目的として、法人保険を活用します。掛け金のうちの一定割合を毎年損金算入することで、法人税の節税につなげながら法人保険の積立を行う形です。役員退職金支給のタイミングで保険を解約し、保険の返戻金を原資として役員退職金を支給します。

※ただし、制度が変更され、法人保険の掛け金を損金算入できる割合が減少してしまいました。これにより、現状では節税効果が薄くなりました。

2. 役員退職金が損金不算入になるケース

税務調査で役員退職金が否認されるケースがあります。大まかに以下の3通りのパターンです。

1.形式的基準を満たしていない

役員退職金の額は株主総会で決定しなくてはいけません。また、株主総会の決議等で確定した日が属する事業年度に損金として計上するため、議事録を残しておく必要があります。株主総会を経ていない、経営者が独断で退職金の額を決めた、などの場合は税務調査で否認されてしまう可能性が高くなるので要注意です。金額が適切なものであっても、形式要件を満たさないと損金計上できません。

2.実質的基準を満たしていない

役員退職金を受け取った後も会社経営において重要な位置についている場合は、役員退職金が認められないので注意しましょう。引き続き会社に在籍する場合、役員としての地位や職務内容が変更され、退職したのと同様の状況にあるときは、役員退職金として認められます。具体的な例としては、「常勤から非常勤になる(代表権などを持たない)」「取締役が監査役になる」などが挙げられます。

3.金額基準を満たしていない

役員退職金が不当に高額であると判断された場合、高額な部分については損金計上が認められません。このとき、「役員業務に従事した期間」「退職にあたっての事情」「同業種同規模の会社が役員へ支給する退職金」などが考慮され、金額が妥当かどうか判断されます。こうした金額基準を満たしていないと、役員退職金が損金不算入をなってしまうため、注意が必要です。

3. 役員退職金の損金算入時期について

役員退職金の損金算入をするには、2つの時期があります。それぞれの特徴やメリットを見極めることで、節税効果を大きくすることも可能です。

1.株主総会で役員退職金を決める決議をした事業年度
2.会社が役員退職金を支払った事業年度

株主総会で決議をした事業年度と役員退職金を支払った事業年度は、必ずしも同じ年度になるとは限りません。ということは、損金算入したい年度を会社が選択できるということです。結果として、役員退職金を損金算入する際、税務上でより条件の良い年度を選ぶことができます。

事業年度の利益が出そうであれば、その年度内に上記1と2のいずれかの方法で損金計上することで、法人税の負担を削減できます。ある程度計画的に損金計上できることは、会社にとってメリットになると言えるでしょう。

4. 企業型確定拠出年金を併用して損金算入限度額を超えた資産形成が可能に

企業型確定拠出年金は、社員の退職金準備として大手企業で多く採用されています。しかし実は、「役員だけ」「1人だけ」でも加入できる制度だということはあまり知られていません。
役員だけで加入した場合でも、掛金は「福利厚生費」として税務上「全額損金」に計上できます。

企業型確定拠出年金は、小規模企業共済や中退共のように掛金の運用を任せるタイプとは異なり、自分で選んで運用することができるという点が特徴でありメリットです。運用の仕方によっては、資産を大きく増やすことができます

ただし、掛金の上限は月額5万5千円と決まっています。年間で言うと66万円までです。
年間66万円を全額損金に計上できるため、節税額は法人税率30%で20万円となります。
これを25年間利用し続ける、節税額は500万円になり、税引後の負担額は1,150万円です。
25年間の元金は1,650万円なので、全く運用しない場合でも実質返戻率は143%となります。

企業型確定拠出年金を併用活用した資産形成も可能に

役員退職金としては1億円が限度額だった場合、企業型確定拠出年金で5,000万円の資産形成を併用活用することで、本来の役員退職金1億円に企業型確定拠出年金で資産形成した5,000万円を加えることができます。結果、合わせて1億5,000万円を役員個人に渡すことができるのです。

企業型確定拠出年金を退職金代わりに活用するメリット

企業型確定拠出年金なら、掛け金を全額損金算入することができ、会社としては節税効果を得ることが可能です。運用は役員個人の裁量になりますが、仮に全く運用しなくても実質返戻率は法人保険に比べても高いのが魅力だと言えます。

運用をうまくすれば、例えば本来の役員退職金が5,000万円とした場合、同等額の資産にすることもできるでしょう。そのため、企業型確定拠出年金は厳密には役員退職金ではありませんが、「退職金代わり」としては活用できるのです。

・役員退職金として支給される
・企業が掛け金を支払いつつ役員個人の資産形成できる

上記いずれかの違いはあるものの、将来的に役員個人の手元に資産が作れるということには変わりありません。結果、企業型確定拠出年金は役員退職金代わりとして活用することができるのです。

役員退職金については、企業型確定拠出年金を組み合わせて備えることで、役員の個人資産の形成と企業の節税を両立させることができます。運用の仕方によっては資産を大きくすることも可能なので、非常に将来的な有用性のある方法だと言えるでしょう。企業にとっても、節税効果を大きくすることは経営面に大きなメリットとなります。

今回ご紹介した内容を踏まえて、ぜひより大きな節税効果を得られるよう工夫してみてください。これまで役員退職金の節税効果についてあまり考えたことがなかったという方も、すぐに始められる節税方法をご紹介したのでぜひ試していただければと思います。

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