ウェルビーイング(WB)は、身体的・精神的・社会的に良好な状態を指し、単なる病気や欠乏のない状態ではなく、個人が幸福で満足感を得られることを目指します。職場では、従業員が健康で生き生きと働ける環境を整えることが重要であり、企業は福利厚生や働きやすい職場環境を通じてウェルビーイング向上を支援する役割を担っています。
さらに、ファイナンシャル・ウェルビーイング(FWB)は、経済的な安定を確保することで、個人が安心して生活できる状態を指します。収入や資産を適切に管理し、将来への備えを行うことで、精神的な負担を軽減し、生活の質を向上させることが目的です。特に、若年層の資産形成や老後の備えを支援する取り組みが重要視されています。企業は福利厚生として資産形成支援制度や教育を提供し、従業員のFWB向上をサポートする役割を担っています。
1. 背景と現状
日本の労働力人口約6900万人の多くが給与所得で生活しており、老後や将来に向けた資産形成が進んでいない現状があります。特に若い世代では、収入が生活費に充てられる傾向が強く、貯蓄や投資に回せる資金が限られていることが課題となっています。このような状況下で、企業型DC(確定拠出年金)などの制度が広がりつつありますが、十分に活用されているとは言えません。全国で400万社近くの企業がありますが、導入企業数は5万社もありません。特に中小企業でのDCの導入率は「1%強」と言われています。
2. 調査結果と課題
ライフプラン支援を手がける三井住友トラストアセットマネジメントが実施した調査によると、企業型DC利用者の方がライフプランや資産形成の重要性を認識してます。
働き出してからの「お金の教育」の受講経験、ライフプランの策定状況、退職金水準の把握状況、積立て投資の実践率の4項目すべてにおいて、DC活用者の方が上回っています。
また、資産形成支援制度が就職先の選択に影響を与えるかどうかを問う別の調査では、20代の37.6%の人が「影響がある」と回答しています。これは特に若い世代にとって、資産形成支援が職場選びの重要な要因になっていることを示しています。
弊社でも、企業型DCの社員説明会を行ったときに、「前の会社で企業型DCに入っていて、再就職先を探すのに企業型DCのある会社を選んだ」という社員さんがいました。
3. ファイナンシャル・ウェルビーイングの重要性
「ファイナンシャル・ウェルビーイング(FWB)」とは、将来にわたる経済的安定を確保することで、個人がより安心して暮らせる状態を指します。FWBの向上が個人だけでなく、社会全体にとっても重要です。特に若い世代への投資教育や長期的な資産形成支援が必要であり、これが個人の将来設計や経済的安心感を支えるだけでなく、社会全体の安定にもつながると指摘されています。
社員説明会で、「NISAをやっている人はいますか?」と質問すると、1割くらいの人しか手が上がりません。2024年から制度改正が行われ、非課税の期間が無期限に拡充されたのですが
実際に、積立枠や成長枠を利用している人は少ないようです。
アメリカと日本の個人金融資産の伸び率を2000年以降で比べると、アメリカ3.4倍に対して日本は僅か1.4倍です。この事実からもわかるように、金融リテラシーを高めて、個人の資産形成を若い時から始める必要があります。
4. 企業の役割と具体的支援策
企業には、従業員の資産形成を支援する責任があるとされています。福利厚生の一環として、従業員が自身の資産形成をより効率的に行える環境を整備することが求められています。具体策としては、「ライフプラン支援セミナーの実施」や「企業型DC制度の活用促進」が挙げられます。これにより、従業員が安心して働ける環境を提供するとともに、企業自身の魅力向上にもつながると考えられます。
結論
日本では資産形成の重要性が認識されつつあるものの、十分に行動に移されていない状況が見られます。その中で、企業が積極的にFWB向上に取り組み、従業員に資産形成の支援を行うことは、個人の将来設計を支えるだけでなく、企業の競争力向上や社会全体の安定にも寄与するものと考えられます。
1級FP技能士 本川 吉弘