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企業型DCの導入がもたらす未来
はじめに
企業型DC(企業型確定拠出年金)は、企業が従業員のために積み立てを行い、従業員自身が運用方法を選択する年金制度です。厚生年金や退職金制度と並ぶ「老後資産形成の仕組み」として注目されており、特に資産形成が重要視される現代において、多くの企業が導入を進めています。
しかし、日本の企業における導入率はまだ十分とは言えません。特に中小企業では「導入が難しそう」「手続きが複雑では?」という声も多く、導入を見送るケースが少なくありません。
本記事では、企業型DCの導入が企業と従業員双方にとって大きなメリットをもたらす理由を導入事例も交えながら解説し、未加入企業の皆様にその魅力をお伝えします。
企業型DCとは?
企業型DCとは、企業が従業員のために積み立てる年金制度の一つです。企業が掛金を拠出し、従業員がその資金を自身で運用する仕組みになっています。運用結果によって将来の受取額が変動するため、従業員の資産形成に対する関心を高める効果も期待されます。
企業型DCを導入するべき3つの理由
1. 優秀な人材確保・定着につながる
近年、特に若い世代(Z世代)にとって「将来の資産形成」は企業選びの重要な要素になっています。2023年に行われた金融庁の調査では、「企業が資産形成・金融リテラシー研修を提供する場合、志望度が高まる」と回答した学生が約80%に達しました。
また、企業型DCは従業員の老後資産形成を支援する制度であるため、福利厚生の充実をアピールできます。採用活動の際、企業型DCの導入は他社との差別化要因となり、優秀な人材の確保・定着につながるでしょう。
2. 企業の社会的責任(CSR)の強化
企業型DCを導入することで、従業員の金融リテラシー向上に貢献できるだけでなく、持続可能な社会の構築にも寄与できます。日本では金融経済教育の普及がまだ十分ではなく、2022年の金融広報中央委員会の調査では「金融経済教育を受けたことがある」と回答した人はわずか7%でした。
政府も官民一体となって金融教育の推進を進めており、企業が従業員の資産形成を支援することは、社会全体の金融リテラシー向上にもつながります。こうした取り組みは企業の評価を高め、企業ブランドの向上にも貢献するでしょう。
3. 税制優遇措置の活用
企業型DCを導入すると、企業が拠出する掛金は法人税の損金算入が可能です。また、社会保険料の負担も軽減できるため、企業の財務負担を抑えつつ、従業員の福利厚生を強化できるメリットがあります。従業員にとっても課税所得を抑えるメリットがあります。
特に退職金制度を見直すタイミングで企業型DCを導入することで、企業にとっても合理的なコストで従業員の将来設計をサポートできます。
従業員にとってのメリットとは?
1. 老後資産の計画的な形成が可能
企業型DCでは、企業が毎月拠出する掛金を、従業員自身が運用して老後の資産を形成していきます。税制優遇があるため、通常の貯蓄よりも効率的に資産を増やすことができるのが大きな特徴です。
2. 節税メリットが大きい
企業型DCで積み立てた掛金は、従業員の所得税や住民税の課税対象外となります。また、運用益も非課税となるため、税制面での優遇を最大限に活用することができます。
3. 「会社任せ」でスタートできる
企業型DCは、NISAやiDeCoのように自分で金融機関に申込をする手間がありません。「資産運用には興味があるけど手続きが面倒くさい」と思っている従業員は、アンケートをとると意外と多いのです。会社に申し込めば、掛金は給与天引き、金融機関への口座開設の手続きが不要、年末調整で税金の還付を受ける手続きも不要、掛金の資産運用も会社の説明で簡単に理解できる、継続教育が受けられるので忘れていても資産運用の見直しができるなど「手間をかけずに資産形成を進められる」メリットがあります。
企業型DCの導入事例:オムロンの取組み
オムロンでは、福利厚生の一環として**共済会ウィズ(With)**という独立した組織が従業員の生活設計を支援しています。その中で、金融リテラシーの向上と資産形成の促進を目的に、企業型DCを活用した金融経済教育が積極的に行われています。
取り組みの内容
DC継続教育の実施
- e-Learningを全社員向けに提供し、受講率は80%を達成。
- マネージャー向けにも通達を行い、企業全体で資産形成を支援。
- オンラインセミナーを年間4回開催し、延べ1300人が参加。
ライフデザイン(LD)セミナー
- 50代以降の社員向けに「生涯の資産管理」をテーマとしたセミナーを実施。
- ファイナンシャルプランナー(FP)による個別相談を1000件以上提供。
元本確保型の従業員割合の低下
- 「元本確保型のみを選択する従業員の割合を減らす」目標を設定し、運用知識を普及。
- 2023年時点で、DC運用の平均利回り2%以上を確保することを中期目標に設定。
金融経済教育の重要性
金融リテラシーは、企業型DCを成功させるための鍵となります。Z世代の若手従業員は「安定した働き方」を求めており、その中で「資産形成・金融リテラシー研修」が企業選びの要素として重要視されています。また、金融リテラシーを向上させることで、
- 従業員が投資詐欺などのリスクを回避できる
- 長期的な資産形成の意識が高まり、企業型DCの運用が効果的に行われる
- 経済的に安心して働ける環境が整う
といったメリットが生まれます。継続教育を定期的に行うことにより、資産を増加させることができます。
資産運用をした場合としない場合では、2000年5月から2024年12月の間で4倍以上の差が生じています。
企業型DCの導入は意外と簡単!
「導入が難しそう」「手続きが複雑では?」と心配される企業も多いですが、弊社のような専門コンサルタントのサポートを受けていただければスムーズに導入することが可能です。
導入までの基本的な流れは以下のようになります。
- 制度設計の決定(拠出額の設定、加入対象者の決定など)
- 導入の申し込み(運営管理機関を選定)
- 従業員説明会の実施(運用の選択肢などを説明)
- 制度の開始(毎月の掛金の拠出開始)
企業に合わせた柔軟な制度設計が可能なため、現在の福利厚生制度を見直す機会としても最適です。
企業型DC導入のポイント
1. 企業のビジョンと連携
企業型DCの導入は、単なる年金制度の提供ではなく、企業のビジョンや人的資本経営と連携させることが重要です。社員のライフプランを支援することで、エンゲージメントの向上につながります。
2. 金融教育の充実
従業員が自ら資産運用を行う仕組みであるため、基本的な金融知識を身につける機会を提供することが成功の鍵となります。定期的なセミナーやオンライン学習を取り入れると効果的です。
3. 柔軟な選択肢の提供
リスク許容度の異なる従業員に対応できるよう、運用商品の選択肢を適切に整備することも重要です。初心者向けの商品と積極的な運用を希望する層向けの選択肢をバランスよく用意すると、より広い層に活用されやすくなります。
まとめ
企業型DCは、従業員の資産形成を支援し、企業の魅力を高める制度です。オムロンの事例や金融経済教育の取り組みからも分かるように、金融教育の充実と運用商品の多様化が成功のカギとなります。これから導入を検討している企業は、従業員の理解を深める環境づくりを意識しながら、自社に最適な形で導入を進めていきましょう。