2026年、企業型確定拠出年金(企業型DC)の加入者数が、確定給付型年金(DB)の加入者数を初めて上回る見通しとなりました。
日本経済新聞(2026年5月9日付)によると、2025年度の企業型DC新規導入件数は483件(前年比約5%増)にのぼり、従業員4〜5名規模の中小企業でも導入が広がっています。
背景にあるのは、深刻な人手不足と福利厚生充実へのニーズです。
「うちのような小さな会社でも、企業型DCを導入できるのか?」
そう感じている経営者の方に向けて、本記事では企業型DCの仕組みとメリット・デメリット、導入のポイントをわかりやすく解説します。
- 企業型DC加入者数が確定給付を上回った背景
- 中小企業が企業型DCを導入するメリットと注意点
- 導入の流れと費用感
- 自社に向いているかどうかの判断基準
- よくある疑問(FAQ)
確定拠出年金の加入者数が確定給付を上回った理由
かつて企業の退職金制度の主流は、確定給付型年金(DB)でした。
DBは、あらかじめ決められた給付額を会社が保証する制度です。社員にとっては安心感がありますが、会社側は運用成績にかかわらず給付額を確保しなければならないため、財務リスクを抱えることになります。
一方、企業型DC(確定拠出年金)は、会社が掛金を拠出し、社員自身が資産運用を行う制度です。給付額はあらかじめ決まっておらず、運用結果によって将来の受取額が変わります。会社にとっては財務リスクを抑えやすく、掛金額が明確なため管理もしやすい制度です。
近年、大企業を中心にDBからDCへの移行が進んでいましたが、2025年度以降は中小企業での新規導入が加速し、ついに加入者数がDBを上回る見通しとなりました。
なぜ中小企業での導入が増えているのか
主な理由は以下の3つです。
- 人手確保・採用競争力の強化:中小企業にとって、大企業との採用競争は厳しい状況が続いています。企業型DCの導入は、退職金制度の整備・福利厚生の充実として求職者にアピールできます。
- 退職給付引当金の積立不要:DBと異なり、毎月の掛金が固定されているため、将来的な資金計画が立てやすい点が中小企業に向いています。
- 社員の資産形成支援への関心の高まり:老後資産形成への意識が高まる中、会社として社員の将来をサポートする姿勢を示せることが、定着率向上にもつながっています。
企業型DC(確定拠出年金)とは
企業型DCは、企業が毎月一定の掛金を拠出し、社員が自ら資産運用を行う年金制度です。
老齢給付金として、原則60歳以降に一時金または年金形式で受け取ることができます。
基本的な仕組み
- 会社が毎月掛金を拠出(上限:月額55,000円 ※他の企業年金がない場合)
- 社員は運営管理機関が提供する運用商品(投資信託・定期預金等)から自分で選ぶ
- 運用益は非課税(DCアカウント内での運用中)
- 原則60歳以降に受け取り可能
- 受取時は退職所得控除または公的年金等控除が適用される
確定給付年金(DB)との違い
| 項目 | 企業型DC | 確定給付年金(DB) |
|---|---|---|
| 給付額 | 運用結果により変動 | あらかじめ決まっている |
| 会社の財務リスク | 低い(掛金が固定) | 高い(不足時に追加拠出が必要) |
| 社員の運用責任 | 社員自身が運用選択 | 会社が運用 |
| 管理コスト | 比較的低い | 高い傾向 |
| 中小企業での導入 | しやすい | 難しい場合が多い |
中小企業が企業型DCを導入するメリット
会社側のメリット
1. 掛金が全額損金算入できる
会社が拠出した掛金は、全額を損金として計上できます。法人税の課税対象となる所得を減らす効果があります。ただし、損金算入できるのは「実際に拠出した掛金」に限られます。税務上の取り扱いは会社の状況によって異なりますので、税理士にご確認ください。
2. 退職給付引当金の積立不要
従来の退職金制度では、将来の退職金支払いに備えた引当金を積み立てる必要がありました。企業型DCでは毎月の掛金が明確なため、バランスシートへの影響を抑えることができます。
3. 採用・定着への効果
退職金制度・福利厚生が整っていることは、求職者にとって企業選択の重要な判断材料です。特に、退職金制度のない中小企業が企業型DCを導入することで、採用競争力の向上が期待できます。
4. 財務リスクの低減
DBと異なり、運用リスクは社員側が負います。掛金額が固定されているため、会社の財務計画が立てやすくなります。
社員側のメリット
1. 掛金が給与所得に含まれない
会社が拠出した掛金は、社員の給与所得として課税されません。所得税・住民税の節税効果があります。
2. 運用益が非課税
DCアカウント内で得られた運用益(利子・配当・売却益)は、受取時まで課税されません。通常の金融商品で運用した場合と比べて、複利効果が高まります。
3. 受取時の税制優遇
一時金で受け取る場合は退職所得控除、年金で受け取る場合は公的年金等控除が適用されます。
4. 自分で運用商品を選べる
社員が自分のリスク許容度に合わせて運用商品を選べます。元本確保型の定期預金から、インデックスファンド・バランスファンドまで、複数の商品から選択できます。
企業型DCは会社ごとの給与体系・退職金制度・従業員数によって設計が変わります。まずは個別相談で、自社に合う制度設計を確認してみてください。
企業型DCのデメリット・注意点
会社側の注意点
1. 導入・運営に事務コストがかかる
企業型DCの導入には、運営管理機関との契約、規約の作成、労使合意の取得、従業員説明会の実施などが必要です。導入後も定期的な従業員教育(投資教育)の実施義務があります。
2. 原則として廃止・減額が難しい
一度導入した企業型DCの掛金を減額・廃止する場合は、労使合意や規約変更が必要です。経営状況が悪化した際に容易に止められないことを念頭に置く必要があります。
3. 全従業員を対象にする原則
原則として、対象となる従業員全員を加入させる必要があります。
社員側の注意点
1. 原則60歳まで引き出せない
DCアカウントに積み立てた資産は、原則として60歳になるまで引き出すことができません。急な出費に充てることはできないため、生活資金とは別に考える必要があります。
2. 運用リスクは社員が負う
元本確保型の商品もありますが、投資信託等で運用した場合、元本割れのリスクがあります。運用成績次第で受取額が変わることを社員に十分説明する必要があります。
3. 選択制DCの場合は社会保険料・将来給付への影響を確認
「選択制DC」を採用する場合、給与設計によって社会保険料の計算基礎(標準報酬月額)が変わる可能性があります。社会保険料が下がる場合は、傷病手当金・出産手当金・将来の厚生年金額も影響を受ける場合があります。導入前に社会保険労務士にご確認ください。
企業型DCの導入の流れ
- 検討・情報収集:運営管理機関や専門家に相談し、制度の概要と自社に合う設計を検討します。
- 制度設計:掛金額・対象者・運用商品ラインナップ・マッチング拠出の有無などを決めます。
- 労使合意・規約作成:労働組合または労働者の過半数代表者との合意を得て、DC規約を作成します。
- 国への申請:厚生労働省への規約承認申請を行います(運営管理機関がサポート)。
- 従業員説明・投資教育:全加入予定者に制度の仕組みと運用の考え方を説明します。
- 運用開始:承認後、掛金の拠出と運用がスタートします。
一般的に、検討開始から運用開始まで3〜6か月程度かかるとされています。
導入手順や費用感をまとめた資料をご用意しています。中小企業向けに制度の仕組みと注意点をわかりやすく解説していますので、ぜひご活用ください。
企業型DCと他制度の比較
企業型DCとiDeCoの違い
| 項目 | 企業型DC | iDeCo |
|---|---|---|
| 掛金の負担 | 会社が拠出 | 個人が拠出 |
| 掛金の上限 | 月額27,500〜55,000円 | 月額12,000〜68,000円 |
| 加入の主体 | 会社が制度導入 | 個人が任意加入 |
| 会社側のメリット | 掛金を損金算入 | なし |
企業型DCと中退共の違い
| 項目 | 企業型DC | 中退共 |
|---|---|---|
| 給付の種類 | 老齢給付金(年金・一時金) | 退職金(一時金) |
| 受取開始 | 原則60歳以降 | 退職時 |
| ポータビリティ | 転職先DC・iDeCoへ移換可能 | 原則として移換不可 |
よくある質問(FAQ)
Q1. 従業員が少ない中小企業でも導入できますか?
はい、導入できます。法律上、従業員数の下限はありません。実際に、従業員4〜5名規模の企業でも導入が進んでいます。ただし、導入・運営にかかるコストが発生しますので、規模に応じて費用対効果を検討することが重要です。
Q2. 役員も企業型DCに加入できますか?
法人の役員も、一定の条件のもとで加入できます。ただし、会社の規約や制度設計によって対象者の範囲が決まりますので、導入時に確認が必要です。
Q3. 既存の退職金制度はどうなりますか?
企業型DCは、既存の退職金制度を廃止して移行する方法と、既存制度と併用する方法があります。中退共から企業型DCへの移行も一定の条件のもと可能です。
Q4. 社員に運用の知識がなくても大丈夫ですか?
元本確保型の定期預金タイプの商品も選べますので、投資経験がない社員でも安心して加入できます。また、運営管理機関を通じて、社員向けの研修や資料提供が行われます。
Q5. 掛金はいつでも変更できますか?
掛金の変更は、規約に定めた範囲内で行うことができます。ただし、掛金の減額・廃止には労使合意と規約変更が必要な場合があります。最初から無理のない掛金設定にすることが重要です。
Q6. 導入にかかる費用はどのくらいですか?
費用は運営管理機関によって異なりますが、主な費用項目は以下のとおりです。
- 導入費用:十数万円〜
- 加入者1人あたりの月額管理費:数百円〜数千円程度
- 事業主の口座管理費:数千円〜1万円程度/月
詳細は運営管理機関に見積もりを依頼することをおすすめします。
まとめ
企業型DC(確定拠出年金)の加入者数が確定給付を上回る時代を迎え、中小企業への導入がますます加速しています。
採用競争力の強化・退職金制度の整備・社員の資産形成支援という観点から、企業型DCは中小企業にとっても有力な選択肢となっています。
一方で、事務負担・掛金変更の難しさ・社員への運用教育義務など、導入前に把握すべき注意点もあります。
「自社に合うかどうか」を判断するためには、現在の退職金制度・従業員構成・資金計画を整理したうえで、専門家に相談することをおすすめします。
企業型DCは、会社ごとの給与体系や退職金制度によって最適な設計が異なります。「自社に向いているか知りたい」「費用感を把握したい」という方は、個別相談をご活用ください。現状のヒアリングから、制度設計の方向性まで一緒に整理します。
※本記事は企業型確定拠出年金に関する一般的な情報提供を目的としたものです。税務・社会保険・労務上の取り扱いは、会社の状況や制度設計によって異なります。導入判断にあたっては、税理士・社会保険労務士等の専門家にご確認ください。
参考:日本経済新聞(2026年5月9日)、厚生労働省「確定拠出年金の統計」、国民年金基金連合会公式サイト
この記事の執筆:金融財務研究所
企業型DC・退職金制度・財務改善に関する相談を中小企業向けに行っています。
